建築設計事務所で新人のコンピュータスキルに頼るベテランの構図

時代遅れを感じてしまう瞬間

私は、小さな建築設計事務所に勤める57才の男性です。

建築設計図面

私はデザイン担当で自分のセンスをフルに発揮し、クライアントの要求に答えるべく、日々奮闘しています。

しかし、最近建築基準法の改正が多く、自分の意図したデザインが法によって阻止される場合が多々あるようになり、そのような時、若手にCGを動かしてもらい十分検討しています。このことにより、自分のデザインに無駄や無理な点がいくつか判明します。

CGソフトが操作できない私は、若手に検討依頼をすることがありますが、彼は私が期待した以上の提案をしてきます。

このCGソフトは、初め私も使っていたのですが、バージョンアップするごとにコマンドアイコンが増え、基本設定も複雑化し技術職の営業マンを事務所に読んで説明を受けない限り、操作が分からないようになりました。

若い頃は、鉛筆一本で図面を引きテンプレートなどを駆使してあらゆる図面を一つ一つ作成するという、今の若い人には理解できないであろう図面作業を行なってきたにもかかわらず、CGソフトの前では、コンピュータに使われている状態です。

コンピュータの知識に秀でた新人

そのCGソフト操作に悩んでいるとき、社長がそれを見かねて求人募集を致しました。

25才で工学部建築学科を卒業した彼は、面接をしてみるとある程度の知識はありますが、比較的建築の知識にうとく感じられました。

しかし、学生時代に当事務所が今使っているCGソフトを使っていたとのことで、社長も私も「少し教育すれば使えるようになるのではないか」と判断し、採用することに決定したのです。

学生時代に使っていたCGについては相当の知識を持っているようで、その処理速度は私たちを驚かせました。

タイピングも早く、CGに必要な基本条件を入力すると、パッと完成予想図が表示され、法的制限などをクリアしていない部分もチェックしてくれるなどして、設計の効率を期待以上に上げてくれました。

そのような彼を見て、もう私の時代ではないと強く感じました。私の知識はCGは全部コンピュータが記憶しており、その能力を十分発揮するには、そんなに経験を踏まないでも済むことを十分認識させられました。

新人に頼ろうとした姑息な私の行動

このように有力な新人が入ってきたことで、私は彼に頼る事を覚えました。簡単な平面図と立面図を渡し、後はおまかせという状態になっていきました。

最初は、プライドが邪魔して彼の力を借りることを拒否していましたが、自分が残業の続く中、彼は仕事をサッサと仕上げて定時退勤する姿をしばしば見かけるようになった私は、先輩としてのプライドを捨て彼の実力を素直に認めていこうと決心するにいたったのです。

それからというもの、彼のご機嫌をとり何十年も業界にいないと知り得ない知識を切り売りして、その代わりに自分の担当の仕事の半分以上の図面作成作業をしてもらうようになりました。

本音として、
「便利な奴を採用したものだ、若いから給料も安いし体力もある。建築現場を訪れて、施工会社への指導・監督もしてもらうことにし、自分はクライアントとの折衝、業者との値段交渉ついでに彼の作成した図面のチェックをすればいい」
というのがありました。

新人を使い回したため生じたあわれな事態

ところが、受注した建築物についてクライアントに詳細に説明する際、平面図と立面図を書いただけで後は彼に任せていたこともあり、クライアントの質問に対し十分納得のいく回答ができない状況が増えてしまいました。

彼もCGソフトで自動作成される図面を見ても、設計の詳細については説明する能力に乏しく、始めから図面を見直す事態が多くなりました。

クライアントから、なぜ自分が設計したのに直ぐに回答できないのかとかつじつまが合っていいないなどの指摘を受けるようになり、「後日、文書にて回答させていただきます」と逃げる次第でした。

クライアントも私が図面を作成していない事に気が付きながらも、設計料を下げる目的でいろいろ細かいところをついてきて、作為的に困らせようとする意図がありありでした。

小さな設計事務所だからといって、何から何まで一人の設計者が全てを行う事は事実上無理であり、1日の工賃が高い私が全部やっていたのでは、そのプロジェクトは赤字になってしまいます。

そこで、図面枚数を減らし現場監理を行う回数を少なくしようと考える訳です。現場監督に報告書を書かせてそれを適当にアレンジしてクライアントに提出しようと考えるのです。

また彼を同席させ、建築的にあまり経験を要さず、コンピュータ上で出た結論だけを述べさせることにしようと思いました。

若い彼とパートナーになるという考え方

彼は、あくまで優秀なコンピュータ実務者であり建築的経験は、まだまだといえます。
設計実務では、非常に素晴らしい成績をあげますが、交渉などを行うにはまだ十分な実力がありません。

ところが、私と共に考えた想定解答マニュアルを新しく作るにあたって、またも彼の実力が発揮されることになりました。

コンピュータ

彼の推薦するソフトを購入しそれによりマニュアルを作成する等により、クライアントから質問されるであろうパターン的な質問に対し、経験を基にした文章を作成していくのですが、幾度となく質問に対し回答を繰り返しているうちに「断定的な言葉が多すぎます」「内容が矛盾しています」「回答内容があいまいです」と、コンピュータが内容の不完全さを指摘します。

確かに自前で作成した回答マニュアルはそういう点が多く、コンピュータの指摘内容を彼と共に修正していき、クライアントも納得できるであろうマニュアルができあがりました。

彼は、やはり私にとって、なくてはならない存在で自分のパートナーと認めるべき人間なのです。

今まで人の力で行っていて非常に時間を要していた作業が、ミスなくかつ素早くできるそんな時代なのだと便利にも感じ、若い力に期待することが多いのだと、寂しい思いもありましたが納得するに至る私でありました。

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