気に入らないと眼鏡を落とす先生
私は30代のアパレルの販売員。かれこれもう16年間この業界にいる。
「すごく怖いどこかの大学の先生が来る。その人は眼鏡を落として抗議されるから気を付けて。」
隣のショップから情報をもらい、どんな人なんだろうと思っていたら普通の神経質そうな女性だった。外から様子を伺うようにされていたが何かが違う。
そう、販売員を観察されているのだ。目的は何だろうと思いきや、
「誰か副店長を呼んで頂戴。」
と隣の店から声がする。
しばらくすると男性の管理職が数人やってきた。どうやら販売員が接客中に自分に気が付いていたのにそばへ来なかった事が原因らしい。それから男性職員が女性を囲んでどこかへ連れて行った。
その1週間後に私の一人の時に店に来たのだ。慎重に迎えて話を聞いていると何やら眼鏡を気にしている。
これが眼鏡落としだ。
そこから来られた顧客様には迷惑のかからないように対応した。おかげさまで何もなく帰って行かれた。
2日後、聞き覚えのある声がすると思ったらこの女性が店の入り口で、
「このお店をもう少し広くしてあげられないの?」
と副店長に無理難題を言っていた。
いつまでかかる細かい再修理
ある日、おっとりとした小柄で綺麗な40代の女性がスカートを買って下さった。スカート丈が長いので寸法を取り、後日の来店を予定していた。
食事を終えて店に戻ると何やらおかしな感じだったので耳を澄ますと直したスカートの寸法が気に入らないようだ。
「何センチなの?」
とスタッフに確認すると
「1ミリです。」
まさかと思いご本人に聞いてみると確かにそう言われる。そして彼女は決して妥協することなく1ミリずれていると説明している。しかし再修理などはできない。まかり間違って出しても修理の職人さんから「本当にするつもりなの?」と心配されるに違いないのだ。
こんなことで時間を食っていたら売り上げは上がらない。しかし食い下がられること30分。もう限界だった。こんなことで上司に頼むのは気が進まなかったが、こういう人こそ後で尾を引くのだ。可愛そうな上司は私が休憩から帰ってきても捕まっていた。
もう、あの方にはできるだけ販売しないようにしてください。
申し訳ない気持ちで一杯になった。
待ち合わせなら初めに言ってください。
その方は何年も前から店に来ている顧客だった。一人で来られることが多くいつも1時間以上をこの店で過ごしてプライベートのことや仕事の話などされている。
この数日「お客様を見たらすぐにつくこと。」とうるさく上から言われていた。監視するように何人かの社員が見回りをしている。このときもそばで見られていた。
何か探してられるのか探るのだが決まらない。聞きすぎても悪いと思って離れていると監視の目が光る。またそばによって世間話をはじめてもソワソワされている。どうしたものかと思いながらも監視されながらも工夫していたのだ。
きょろきょろされているので何かあるのかと気づいた時、かわいらしいお客様が現れた。
「お母さん待った?」
「そう長い事ここで待たせてもらったのよ。」
と言って二人で帰られた。
初めからそう言ってくれたらいいのにと店のメンバーが口を揃えるように言った。ゆっくり座って待ってもらえたし、監視を気にせず対応できたのに。
とっても残念だった。
聞いているから怒鳴らないで
閉店間際になると最近やってくる20代後半の色白の女性。
何やらやたらに声が大きい。
そして
「わかってるか!」「今言ったでしょう!」
などと凄みのきいた感じなのでみんなそばにいるのを嫌がった。
その日も閉店前でやっと帰れると油断していたのだ。最終に来られたからと言って決して無碍には扱ったりしない。丁寧に一人が接していたにも関わらずに急に大きな声を張り上げた。
スタッフがびっくりして慌てていると、そこにいたもう一人に同じ内容のことを持ち掛ける。冷静になり要求されていることに対応すると、いきなりで対応しきれなかった初めのスタッフを攻撃する。
そこまで言わなくてもわかっていますよと言いたかっただろうに。そんなことを言ったら気に入られて毎日来るだろう。
突然そのお客様は「これ頂戴。」と言ったのだ。
こういう時は心臓に良くない。
急にありがたいモードに切り替えるのは結構エネルギーが必要だ。
閉店してからも頑張ったご褒美は厳しかった。
お直しをしたら返品しないで
ある会社の社長夫人は外商係員を連れて買い物にいらっしゃる。1セット購入されることが多い。
小柄な方なので袖丈やパンツのすそが余る。フィッティングで寸法を取り、伝票を起こし確認して頂く。そして掛で購入される。
店でお金を払わず後で他の商品と同じに決済する。そのために係が付いてきて購入金額を確認しているのだ。
その日はパーティーに来ていく服ができたと珍しく喜んでられた。あまり話さない方だ。いや、忙しすぎて話している時間がないのだ。
適当に任せてくれればどこかの店で見立てることもできるのにと思っていた。
その日は修理後に外商へ届けて終わりのはずだった。ある日係が見慣れた箱を持ってきた。
「これ、いらないから。」と箱に入ったあの日の商品が置かれた。
あとはそう抗議しようと受けてはもらえず、上司につないだ。
こういうことは割とあり、上司がかたずける。
こだわっても何も変わらない。
今度来られた時にはバックヤードに隠れるしかない。