全ての始まりは中学の同窓会
大学時代の話だ。
中学の同窓会で、同級生の女の子に会った。中学校時代からかわいい子だったが、女らしくなっていた。
久しぶりに話したのだが、中学時代に仲が良かったこともあって、話が弾んでしまい、全員が解散したあとも二人でだらだらと店の前で話していた。
話が一段落したとき、「このまま帰るのもなんだし、どっか行く?」と彼女が提案してきた。僕の家はその会場から近かったので、家に来るのはどうかと誘ってみた。
下心がなかったといえば嘘になるが、純粋に話しているのが楽しかった。ところが問題がひとつあって、僕はそのときまだ実家に暮らしていたのだ。
いくらなんでも、同窓会帰りに女の子を連れ込んだと親に思われたくはないし、最悪の場合、家に入れることが許可されないこともありうる。
それでもまあ、なんとか誤魔化して部屋に入れることさえできれば問題ないだろうということになり、帰りに小さな酒屋でドリンクやお菓子などを買って、ふたりで僕の家に向かった。
親にバレずに侵入できるか?
彼女にも事情を説明し、ひとまず、僕が家に入って見て様子をみることになった。
少し待っているようにいうと、彼女は落ち着かない様子で玄関の手前をうろうろしていた。
「ただいま?」と小さめの声で扉を開けると、「おかえり」の声がした。両親が寝ていれば話は早かったのだが、そうもいかず、僕は少し落胆した。
僕は正直この時点でドキドキしていた。べつに悪いことをするわけではないのだけれど、親にこんな大規模な隠しごとをしたことはなかった。
これは一世一代の賭けになる、なんとなくそんな気がした。
廊下を通り過ぎ、リビングへ向かう。母と父に、同窓会について聞かれ、適当に答えて、もう寝るわと玄関に戻る。
はやる心臓を抑えながら、ゆっくりと扉を開き、彼女に合図。
玄関を入ってすぐ左が僕の部屋なので、このままうまくすれば部屋に入ることができるのだ。リビングの扉が開けばアウトだったが、なんとか神様は僕たちに味方し、彼女は僕の部屋へと侵入することに成功した。
のっぴきならぬ大問題発生
安心したのもあって、僕はそこでふと尿意を覚え、一旦トイレに行った。
トイレに行くにはリビングを通らねばならないが、寝る前に用を足すのは自然なことなので、両親も特に不審には思わず、おやすみと挨拶して僕は部屋に戻った。
ほっとしたのもつかの間、大変なのはここからだった。僕が戻るなり彼女は照れ笑いしながら「僕もお手洗い使っていいかな?」と尋ねてきたのだ。
きけば、同窓会でもお酒を飲んでいたので、店を出る時点でそれなりに行きたかったという。
立ち話をしているときに「どっか行く?」と聞いてきたのも、どこかのお店に入ってとりあえずトイレに行きたいと思ったかららしい。
そんなことも知らず、僕はのん気に舞い上がっていたのだと知り、急に恥ずかしくなった。
女性に気を遣えない自分の情けなさに悔しくなったが、そんなことを言っている場合ではないと気づいて、僕はおたおたした。
そう、トイレにいくためには両親のいるリビングを通らねばならないのだ。
親にバレずにトイレに行けるか?
そのとき時間は午後10時くらいだった。普段通りならもうすぐ親も寝るはずなので、それから行こうということになった。
両親の寝室も近いので危険ではあるけれど、行かないというわけにもいくまい。
というか、それどころか、解散したのが9時だったから、そこからもすでに1時間は経っているわけである。
親が寝静まるまで待つという案を彼女は快く受け入れて、平気そうにしているけれど、それなりに我慢もきついのではないだろうか。僕は自分のことのように心配になった。
実際、楽しそうにしていても会話はどこか上の空で、そわそわと落ち着きがなかった。その証拠に、たくさん買ってきたドリンクには、彼女は一口も口をつけなかった。
時間だけがすぎていったが、両親が寝る気配はなかった。
もちろんたびたび廊下に確認しに行くのだが、いつまで経ってもリビングの明かりは消えない。
とうとう22時半をすぎたころ、彼女がしびれを切らしたかのように立ち上がり「コンビニ行かない?」と言い出した。
親にバレずに脱出できるか?
僕は本当に申し訳なくなり、「ごめん、トイレしたいよね」と謝った。
彼女はあまりそういう風に受け取られたくなかったのか「っていうか、買いたいものもあるし」とごにょごにょ言っていたが、さりげなくステップを踏んでいて、もうじっとしていられない様子だった。
僕はそんな彼女を見て罪悪感でいっぱいになった。
そのときだった。
部屋がノックされ、僕は心臓が飛び上がるかと思った。僕は慌てて彼女をドアからの死角に隠し、廊下へそっと出た。
ノックしたのは母親で、明日はちゃんと僕がゴミ出しをするようにという話だった。
扉は閉めて廊下で話したが、僕は気が気ではなかった。そこから派生した小言が5分ほど続いたが、僕はなんとか話を無理やり終わらせ、母がリビングに戻ると同時に、僕は彼女を急かし、慌てて家を脱出し、コンビニへ向かった。
コンビニのトイレから出てきた彼女に僕は改めて謝ったが、彼女は笑って許してくれた。
そして、僕たちはもうこんな危険なことはやめようと心に誓い、僕たちはコンビニ近くの夜の公園で朝まで語り合ったのだった。