やられた、無銭飲食!!
私が大学時代にファミリーレストランでアルバイトをしていたときの話。
夜の12時から朝の9時まで夜勤したあとに、そのまま大学へ行って午前中だけ講義を受けるという生活にも慣れてきた頃、大事件が起こった。
なんと、無銭飲食があったのだ。
その日は、比較的穏やかで、店内の掃除機がけやドリンクバー、コーヒーマシンの分解清掃、ビールサーバーの消毒までひととおりできるくらい、要するに暇だったのだ。
しかし、どんなに暇でもモーニングの時間は忙しいので、気合いを入れるためにバックヤードで煙草を吸っていた私は、フロアに戻るとやけに視線を感じた。
入り口近くの禁煙席に座ったある客がこちらを見つめているのだ。食事をしたあとずっと寝ていたのに、何か用があるのかと思い声をかけたが無視された。
夜勤をしているとこういうことは日常茶飯事で、血の気の多い私は客とやり合うことも多々あったのだが、尻を触られないだけましだと思い仕事に戻った。
案の定、モーニングは忙しく、へとへとになりながらレジで夜の売上を確認していると、例の客がいないことに気づいた。
すぐに会計済か確認したが、未会計。
御手洗いを覗いたが、誰もいない。
やられた。無銭飲食だ。
捜索するも見つからず
10分前に金額チェックを始めたときには席でモーニングを食べ終わる頃だったので、まだ近くにいるかもしれないと思った私は、レジを同僚に頼み外へ走った。
しかし、男の姿はなく、会社へ向かう人々であふれたいつもの駅の姿が広がっているだけだった。
店に戻った私は店長に報告した。
怒られることは覚悟していたが、状況を聞いた店長はとくに叱責することなく、いったん売上を締めるよう指示した。
おつかれ、と労ってくれたので、内心でいけすかない店長だと今までは思っていたが、この人についていこうと思った。
まったく現金なやつだ、私は。
それからはいつもどおり退勤して大学へいった。
事後処理が長引いたので、2限に遅刻してレポートを受け取ってもらえず単位を落としそうになったが、ゼミの教授に頼んで話をつけてもらった。
すると、そういう事情があるなら、早く説明しなさいとレポート提出先の講師に小言を言われた。
聞く耳を持たず門前払いだったのはどこのどいつだ。
退出するときに呟いた一言が聞こえていたのか、結果は「可」だった。
先輩にもらった過去問のおかげで、テストもほぼ満点だったのにおかしな話だ。まったく、あの地獄耳め。あんな大人には絶対になりたくない。
犯人逮捕、事情聴取へ
後日、店長から無銭飲食の犯人が捕まったと知らされた。
店長はめんどくさいが…いい人なので被害届を出さなかったが、別の店で現行犯逮捕された犯人が余罪を告白したそうだ。
ついては、私に事情聴取をしたいので、どこそこ警察署へ来いとのこと。
刑事ドラマの世界を体験できるとあって、わくわくしながら私はその足で警察署へ向かった。
カツ丼食べられるかな、とかアホなことを考えながら、通された部屋はいかにもな取調室ではなく、普通の会議室だった。もちろん、カツ丼は出なかった。
聴取が進み、当時を思い出して腹が立ってきた私は興奮ぎみに喋ったと思う。
何を食べていたか、金額はいくらか、こと細かく話すので、警察の人がドン引きしていた。
一定のメニューを頼まないとその金額にならないから覚えていた、レポートがダメになりそうだったので腹立たしい旨をぶちまけた。
すると、缶コーラを内緒で買ってくれた。不細工なひとだなと思っていたのに急にイケメンに見えた。手のひらを返すとはまさにこのことだ。
ちなみに、無銭飲食は窃盗じゃなく詐欺罪だそうだ。店に入って注文するということは、当然お金を持っていると店員をだますことになるとのこと。
気を付けよう。