出会い
私は現在21歳、家事手伝い。
今から話すのは私が高校生の時の話だ。
高校に入学してすぐにクラスで行われた自己紹介。
そこで私は彼を見つけた。
黒板の前に立ち、ハキハキとした口調で自己紹介をする彼。
最初の印象は、変わってそうだなあ、だった。
特別かっこいいわけでも、変なわけでもない。
自己紹介だって至って普通。
何の変哲もない高校生の彼になぜか私は惹かれた。
漠然と、「あ、素敵な人。」と感じていた。
それからは斜め前あたりに座る彼をぼーっと眺める日々だった。
責任感のある人で、ユーモアに富んでいる人だということを知った。
私はますます彼を見つめるようになった。
しかし、話す機会がなかなかないまま時は過ぎていく。
明確に私の中で彼が好きだという気持ちは燃え上がっているのに、どこまでも奥手だった私は自ら彼に近寄っていくということができなかった。
それでも部活や授業、遊びと青春を謳歌する彼を見つめているだけで私は幸せだった。
「付き合いたい」という感情はその時にはまだ生まれていなかった。
ただ漠然と好き。
それだけ。
それだけで私の青春は輝いているように思えたし、実際毎日がとても充実していて楽しかったのだ。
気付き
それからしばらくして、彼の噂話を耳にするようになった。
彼に彼女が出来た、というものだった。
お相手は彼の近くの席の、彼と委員会が一緒の女の子。
私の小学校の頃の友達で、可愛らしい元気な小さな女の子だった。
まるで私とは真逆のような女の子。
ああいう子が好きなんだなとふと思った時、自分の中に今までにないモヤモヤとした気持ちがあることに気付いた。
でも私はまだこの時、この気持ちの正体を知らなかった。
それから、彼とその彼女がとても仲良さそうに笑いあっているところをよく見かけた。
お似合いだ、楽しそうで何よりと思う中、やはりどこかにモヤモヤとした気持ちはずっといた。
私の最初の頃の青春の輝きが、少しあせたような気がしていた。
高校二年生の春。
彼はその彼女と別れていた。
詳しいことは知らない。
が、どうやらふられたらしいということだけは確かなようだった。
その頃にはもやもやが消えていた。
だがそれからまたすぐに彼には彼女が出来た。
後輩の女の子、ということしか分からなかったが、一緒に登下校する姿はよく見かけた。
彼女に微笑みかけられて、照れくさそうにしている彼を見て、「ああ私も付き合いたいのか」とそこで初めて気が付いたのだ。
彼の噂
それから数ヶ月の間に、彼が付き合う彼女はころころと変わった。
同級生、後輩、他校の子。
その度に私はモヤモヤとした気持ちを引きずり、生活していた。
そしてそこで流れた彼の噂。
「実はあいつタラシらしいよ。」
至って普通の高校生で、何も目立つことなく、別にかっこいいわけでもなく、すごく地味に過ごしている彼が女たらしだという噂。
信じられなかった。
信じたくなかった。
でも彼は、私が信じざるを得ないくらいには、入学してからだけでも沢山の女の子とお付き合いをしていた。
私はそれでもどうしても信じたくなかった。
そして迎えた二度目の夏。
文化祭。
たまたま彼と話す機会があった私は、そこで初めて、きちんと彼と話をした。
最初は緊張してうまく話せたかったが、それでも彼との会話はとても楽しくて、「他の女の子達は彼のこういうところに惚れてアプローチしているんだ。」と思った。
彼が本当に女たらしなのかは分からないけれど、そんな噂なんてどうでもよくなってしまうくらい、実際話してみた彼はとても気さくで素敵な人だった。
「私の見る目に間違いはなかった!」と少し彼を好きになった自分が誇らしくなるくらい、彼は本当に本当に素敵な人だったのだ。
また前進
それから1年。
彼は生徒会長になった。
彼とは私の友達も含めて一緒にテスト勉強をしたり、放課後残って話をしたり、くだらない事で笑えるくらいには仲良くなっていた。
だが、それ以上のことはなく、あくまでいい友達という感じ。
それでも私は楽しかった。
三度目の夏は、生徒会長として忙しく過ごす彼。
私の友達も本部として活動していたため、私も必然的にそれを手伝うことになり、彼との接点も増えていた。
クラスの出しものの班も一緒になり、最後の文化祭がとても楽しいものになることを信じて疑わなかった。
ただ、思いの外忙しいことに加え、生徒会長となった彼は、後輩からの信頼も厚く、人気もあった。
後輩の女の子と楽しそうにしているところもよく見かけた。
結局当日は、あちらこちらに引っ張りだこにされている彼とほとんど関わることは出来ず、そのまま文化祭は終わった。
何も出来ないままに終わった文化祭。
私はまたモヤモヤとした気持ちを引きずっていたが、「彼が楽しかったのならそれでいいや。」と無理やり気持ちを切り替えた。
夏が終わろうとしていた。
私は就職活動をはじめ、彼も進学に向けて準備を始めていた。
残り数ヶ月しか彼とはいられない。
分かっていても何も出来なかった。
迎えた春
それからはあっという間だった。
お互いバタバタと忙しく過ごす日々。
就職組と進学組で分かれて活動することも多く、ほぼ関わることなんてなかった。
迎えた冬。
私は第一希望だった会社の三次試験までいき、落ちていた。
人生初めての挫折だった。
立ち上がる気力もないほどにショックで、ただただ焦りを感じていた。
そんなある日、メッセージが届いた。
彼からのメッセージだった。
私は彼とは連絡先を交換していない。
けど、そこにある名前は明らかに彼の名前だった。
心臓が踊って止まらなかった。
震える手で必死に文字を打った。
たった数文字なのに、すごく時間がかかったのを覚えている。
どうやら彼は元気の無い私を心配して、友達からわざわざ連絡先を聞いて、メッセージを送ってくれたらしい。
彼からのメッセージで前向きになれた私は、そこからまた就職活動を始めた。
数日後。
信じられないことが起こった。
突然来た彼からのメッセージ。
「ずっと就職活動落ち着くまでと思って我慢してたけど、俺、文化祭で頑張って他の人の仕事手伝っていた君を見て、ずっといいなって思ってた。他の人を支えてばかりの君を俺が支えたい。付き合ってほしい。」
突然の告白。
目がくらんだ。
でも返事に迷いはなかった。
3年の思いが実り、やっと私にも春が来たのだ。
それから
それからは更にあっという間だった。
冬休み中も、なんとか決まった就職先での研修と、受験におわれる私と彼。
会う時間なんてなかったが、毎日のメッセージのやりとりが元気をくれた。
冬休み明けからは、更に本格的に進路のことで忙しくなり、そのうち登校日もなくなった。
あとは卒業式を残すのみ。
彼とはカップルらしいことは何も無いまま、高校生最後の日がやってきた。
卒業式。
元生徒会長として全校の前で挨拶をする彼。
前例がないくらい長々と学生生活の思い出を語る彼。
過去を思い出し、涙に震える彼の背中をじっと見つめる私は、そこに彼の青春を確かに見ていた。
教室に戻り、それぞれの挨拶を終えて写真撮影。
皆がいきいきと明るい顔をしてる中、彼は一段と輝く笑顔で笑っていた。
彼の輝く青春の一部になれたことが嬉しくてたまらなかった。
人気者の彼は、その後友達に連れ去られるようにしていなくなってしまい、話をすることは出来なかったが、私の胸の中にはいっぱいの光があった。
あれから数年。
結果として私達は別れてしまったが、学生生活の輝かしい思い出として、彼のことを忘れたことは無い。
彼があったからこそ私の青春は輝いていたのだ。
彼こそが私の青春だったのだ。