イタリアの田舎町に嫁いだ日本人妻が現地の子どもたちに伝えた和の心

イタリアに嫁いできて

私が自慢できる貴重な体験談は、イタリアのお祭りで折り紙作品の展示・販売をしたことです。

お祭りと言っても、人口 5,000人に満たない小さな町の小さなお祭りですが、見る側・買う側ではなく見せる側・売る側としての参加は特別なものでした。

2年半前にイタリア人の夫と結婚したのを機に私は異国の地へ移り住みました。

短期間の滞在は結婚前にもしていましたが、現在45歳という年齢から考えても想像が付く通り、環境の大きな変化に心も身体もなかなか適応出来ませんでした。

日本ではある程度大きな町で何不自由ない生活をしていた私も、全てゼロからのスタートです。

バス・電車・タクシーの無い生活。

夫は運転が好きじゃないため、買い物は近くのスーパーに自転車で行くか、家族に車で連れて行ってもらうという状況でした。

当然、コンビニやドラッグストア的な店はありません。

昼の1時から4時までは昼休みで店は閉まりますし、夜も7~8時で閉店です。

欲しいものはネット通販で買うというのがイタリアでも定着していて、ひどく困ることは無いのですがやはり不便です。

この町にいる日本人は私ひとり。

最初の一年くらいは、一歩外に出るとすれ違う人、窓から外を見ている人、多くの視線が私の背中を追ってきました。

「日本人ってどんなんだろう?」
「何を料理して食べてるの?」
「仕事はしてるの?」
「イタリア語は話せるの?」
「こんな田舎に来てどう思ってるの?」

もう、おしゃべり好きなイタリア人たちには聞きたいこと、知りたいことが山ほどあったようです。

もちろん、うっかり下手なことを言ったら、町中のうわさ好きな人たちの話のネタにされかねません。

その辺は夫がうまいこと言って交わしてくれ、私のイタリア生活はなんとか軌道に乗り始めました。

専業主婦としての生活

ご存知かも知れませんが、イタリアの失業率は昔から高く、一家でアメリカやカナダなどに一時的に出稼ぎに移り住んだり、そのまま永住してしまう人が大勢います。

何を隠そう、私の夫の両親もアメリカで20年ほど暮らし、40年前に向こうで生まれた3人の子供を連れてイタリアに戻ってきた人達なのです。

現在もこの町での就業率はとても低く、無職の人も多いですし、毎日遠くまで通勤している人も少なくありません。

そのような状況で、私が仕事を見付けられる可能性というのは限りなくゼロに近いものでした。

日本では国家資格を持って働ける自分の職業に誇りをもって勤めていましたが、イタリアで通用するはずもなく、私は専業主婦の道を歩むしかありませんでした。

当たり前ですが、毎日食事の支度、後片付け、掃除、洗濯…やってもやってもきりが無いのが家事です。

こうして何もせずに歳を取っていくために私ははるばる日本から来たのだろうか、と自問自答する日々が続きました。

折り紙に目覚める!

本当に、今となっては何がきっかけで折り紙を始めたのかは思い出せません。

結婚する前に長期滞在した際、手持ち無沙汰の時にと思って持参していた小さな折り紙で金平糖のような多面体を作ったところ、家族が大喜びしてくれたことを記憶しています。

その時のことを思い出して、折り紙を取り出してみたのかもしれません。

いつしか家事に区切りがついてひと休みしながら、それまでに作ったことの無い折り紙に挑戦するのが私の日課になっていました。

もちろん、折り紙の本なども当初は持っていませんでしたから、ネットで作り方を検索したり、動画サイトで少しずつ再生しながら真似して作ったりという感じです。

折り紙の用紙も余り持っていませんでしたから、きれいな包装紙を買って正方形に切って使っていました。

子供の頃からお菓子を作ったり、洋服を作ったり、手で何かを作るのが大好きだった私。

気が付くと、もう折り紙をせずには一日が終わらないというほどのめり込んでいました。

日本に居てもこんなに折り紙をする機会は決して無いだろうと思います。
第一、仕事をしていたら、そんな余裕もありません。

また、作りながら感じたのは、祖国の文化が自分の手を通して作り出す様々な作品によって自らが癒されているということでした。

「日本人で良かった」

本当にそう思う瞬間でもありました。イタリアに来ることが無ければそんな気持ちになることも無かったでしょう。

いよいよお祭りに出店!

大小さまざまな折り紙作品が大きな箱に3つほど溜まった頃、夫が地元のお祭りで「おりがみ展」をやってみてはどうかと提案してくれました。

しかし、私はそのお祭りを見に行ったこともありませんでしたし、夫も見たことはあっても出店したことがないという状況でしたので、まずは中心になってお祭りの準備をしている方とコンタクトを取ることにしました。

結果的にひと部屋とテーブル幾つかを貸し切って展示販売をする許可が出ました。

私はいよいよ張り切ってお祭りに向けた作品づくりに取り掛かりました。

販売することよりも、一枚の紙からどんなものが出来るのか、折り紙の世界を見て欲しいという気持ちでした。

そこで思いついたのが、無料プレゼントの折り紙です。子供限定で、一人ひとつまで。

見て可愛いだけの「カラフルひまわり」、動かして遊べる「羽ばたく鳥」「しゃべる口」「駒」、指にはめて遊ぶ「指人形」など、触れて楽しむ折り紙を何十個と作りました。

もちろん、手の込んだ花飾りや巻貝、クリスマスリース、パンダの親子、飾り箱など、値段を付けた物もある程度の数を揃えました。

お祭り当日、驚いたのは聞いていた話とまるで違う現場の状況でした。

まず、部屋は割り当てにならないこと。そして、テーブルも数が足りなくて自分で用意すること。

あと数時間で始まるお祭りの準備をしなくてはならないというのに、ぎりぎりでピンチに陥ってしまいました。

しかし、滅多なことでは物事を諦めない夫が走り回ってくれて、近くのお店からテーブルを借りてきてくれました。

場所は通路でしたが、他のお店を出す人達が素人の私達を気遣って手を貸してくれ、むしろ良い経験になりました。

このようにイタリアでは予定通り事が運ばないという事例が山ほどあります。

日本人のように本番に向けて段取りを整えて…というやり方に慣れている私には信じられない出来事の連続なのです。

イタリア人も文句は言いますが、でも決してそれを改善しようとか工夫しようとか行動を起こす人が余りいません。

皆、食べることと喋ることに忙しいのでしょうか(笑)

折り紙で伝わった日本人の心

そうしてドタバタの準備でお祭りが始まりました。

イタリアでの折り紙店

夫と2人で浴衣を着て、私はシートの上に正座で座り、折り紙の実演もしてみせるという演出です。

お祭りは二日間にわたったのですが、一日目は何が何だか分からないまま時間が過ぎました。

というのも、『無料プレゼント』という文字を見付けた子供達が次々に押し寄せて、遊び方を教えるのに大忙し。

時々別の作品を気に入って買ってくださる女性たちもいて、彼女達にきれいな新聞紙で作った袋や箱に入れて作品を渡すのも全て私ひとりでやりました。

「ORIGAMI」という言葉自体は世界中に浸透していて、「作ったことあるわ」「日本人から教わったのよ」という方までいました。

でも、色とりどりの紙(日本から送ってもらった折り紙に加えて、イタリアで購入した包装紙)で作られた繊細な折り紙の素晴らしさを楽しんで見て下さった方が大勢いたことが嬉しかったです。

お祭りは子供にとって楽しみのひとつだと思うのですが、出店にある欲しいものを買える子ばかりではありません。

雰囲気を楽しむために、仲間とうろついているだけの子達もいました。

そんな子供達が目を輝かせて折り紙の駒や鶴を手に「ありがとう!」と言って去っていく姿に私の胸が熱くなったのは言うまでもありません。

「お金が無くてもお祭りは楽しめるものでなくては!」と改めて感じました。

今どきの子供達は最新型のゲームやしゃれたもの、かっこいい物にしか興味を示さないのかと思っていたのが全くの見当違いでした。

無料プレゼントも無料だからこそ、飽きたらその辺にポイっと捨てられてしまうのではという心配もありました。

しかし、店じまいして帰る道すがら気をつけて見回してもひとつも落ちていませんでした。

「あぁ、良いものは万国共通で伝わるのだな」と思いました。

考えてみたら、まだお祭りに参加すると決まるずっと前から、毎日丁寧に心を込めて折っていた折り紙でした。

知らない土地に来ていろんな思いを抱えながら見付けた小さな喜びが、ひとつひとつに満ちていたはずです。

私の日本人としての心を折り紙ごと受け取ってもらえたような喜びがありました。

二日目も「おりがみ展」は大盛況のうちに終わり、町中の人が私たちの出店や折り紙について話題にしてくれたようでした。

きっと大きな町であれば、こんな風に地元のお祭りに出店するなんてことは叶わなかったかもしれません。

田舎で不便することも多々ありましたが、こんな貴重な体験をご褒美で貰えるなんて、この町とのご縁に感謝するようになりました。

日本では素人が折った折り紙くらいで大きな反響を呼ぶことは難しいと思いますが、海外に居る方なら「時間」と「やる気」で挑戦できると思います。

これを読まれた方で機会に恵まれることがありましたら、是非思い切って日本の「和の心」を形で表現してみて欲しいと思います。

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