恋愛には寂しさが付きもの。遠い昔の恋の話

私という人

私は現在50歳になる女性である。20年間工場で、しがないパートをして来た。

私という人間は結婚には否定的な感情しか持っていない。それ故、若い頃は交際を避けていたくらいである。

何故なら若い頃は付き合って上手くいくと男性も結婚を意識するだろう、そうなっては困るという意識が常に働いていたからだ。

それでもロマンチックな恋愛には憧れていたのだから困ったものである。

不倫などは結婚するリスクは無くても、何か不純な感じがして嫌であった。

あくまでも結婚に結び付かない純粋な恋愛がしたかった。しかし、そんな出会いは本当に難しい。

やはり男性を遠ざけておくのが得策だろう。

そう思った私は男性の目を惹かないようにお洒落もせず若い20代を過ごしてしまった。

今思うと勿体ないことだが、結婚したくないという一心でそんな事をしていたのだ。

そうして30代になり、相変わらずな私はせっせと仕事をして周囲の女性からは「もっとお洒落をしろ」と言われるのが常だった。

私は家事も出来ないし女らしくないよ、というキャラクターを作ってそれで笑いをとる事に勤しんでいた。

それは周囲の女性から可愛がられる方法でもあり、男性を遠ざける方法として一石二鳥のやり方だった。

出会い

彼と出会ったのはそんな職場での事だった。彼は私より遅くに入ったので後輩という事になる。

他所で正社員として働いていたが、体を壊して療養がてら気楽なパートをしているという感じだった。

礼儀正しく感じの良い人。
彼の印象はそれ以上でもそれ以下でもなかった。

まさか彼と付き合う事になるとはその当時は夢にも思わなかった。

その頃、私はある過ちを犯していた。
お見合いしたのである。

頑なに結婚を拒んでいたくせに、結婚は自分が思うほど窮屈なものではないかもしれない。もしかしたら楽しくて良いものかもしれない。そんな思いがよぎり、お見合い話にうっかり乗ってしまったのだ。

多少の期待はあった。
相手の人がすごく良い人で私の結婚に対する不安を打ち砕いてくれて人並みに結婚する。私はなーんだ結婚って思ったより全然良いものじゃない、と思う。

そんな妄想が私を迷わせた。
しかしそんな妄想はすぐに打ち砕かれた。

相手の人は離婚経験者で根っこは悪くない人だったが何しろ自分中心の人だった。10以上年上だったが子供っぽかった気がする。とにかく子供が欲しい様子であった。

そんな相手にとって若い私はうってつけだったようだ。
妄想が消えた私は早く断らないとと思っていた。

お見合い相手と職場の彼

普段は仕事をして週末はお見合いの相手とデートをするのがその頃の私だった。

断ろうと思うのに相手の強引さに負けてズルズルと付き合いを続けてしまっていた。

私には焦る要素がなかったのだ。
一緒にいてどうしても嫌だというわけでは無かったし、アチコチに連れ出してくれるのは少しは楽しさもあった。

けれど心の中では(この人と結婚は無いな)と思っていた。

相手の事を思えばすぐにでも断らなければいけなかった。

でもそんな気にもならない程、相手は強引で私の気持ちを無視するのだった。

そこへは行きたくないと言っても自分が行きたければ連れて行くような人だった。

もうどうとでもなれ。

こんな人じゃ断っても何も無かったかのようにするんだろうな。

そう思った私はとりあえず付き合いながら断るきっかけを探していた。

職場の彼は仕事で会っていたが次第に良く話しかけてくるようになっていた。

毎日何かしら言ってくる。

最初は気にも留めなかったのだが、わさわざ私を探して話しかけにくるのでひょっとしたら?と思わないでもなかった。

でも明らかに年下なのでそんな事あるわけないか、と思ってしまうのだった。

それにその頃の私は恋愛どころでは無く、妄想によるお見合いが不発に終わった事でやはり私の考えは正しかったのだと改めて思い直している最中だった。

猛アタック

ある日、職場の彼から誘われた。何か外で話がしたいと言う。

私は何か相談事かと思って快諾した。
彼は仕事が出来たので何かしら力になれれば良いと思ったのだ。

だがそこでは大した話はしなかった。ただお互いのメールアドレスを交換した。

それから毎日メールが来るようになり、会社帰りに待ち合わせることも多くなった。

仕事の帰りに車に乗せてもらい、家の近所の公園で彼が告白してくれた。

「付き合ってほしい」と。

びっくりしたけど予測出来ていない訳ではなかった。

私は彼に「貴方の事は嫌いじゃないけど、私にはお見合いで付き合っている人がいる」と言った。

これで大概は諦めるはずだ。
ところが驚いた事に彼は諦めなかった。

お見合い相手と結論が出るまで振らないでくれと言った。そしてこれまで通り会ってくれと。正直あきれてしまった。

そこまで好いてくれるのは嬉しいけど迷惑だと思った。しかし、強引さに弱い私はその申し出を受け入れてしまった。

職場の彼とお見合い相手。
二人の男性と同時に会うのはストレスだった。

職場の彼に「アンタとは結婚しない!」と言い放った事もある。これで会わないようにしようとなだめた事もある。

それでも職場の彼は諦めてくれなかった。
ストーカー一歩手前な感じだった。

違うのは、職場の彼はいつも私の気持ちを考えてくれた事だ。

職場の彼を選んだ時

両方の男性と会うストレスに耐え難くなっていた私はお見合い相手に打ち明ける事にした。

いずれ別れるつもりだったのだ。

お見合い相手は「そんな若造に負けない」と言ったが、自分がしたい事しかしない人が私の機嫌をとるためにより豪華なデートをしても続かなかった。

お見合い相手はバカバカしいと思ったようで、別れてくれた。

私の方も断らなければストレスが長引くという気持ちからハッキリ物を言うことが出来た。

そういった意味では職場の彼に感謝している。でも当初、私は彼に相当冷たかった。

自分の意志を貫きたいというのが私の性格なのに、彼によって仕方無く彼を選択したようなものだったから。

お坊ちゃん、その熱情は何処まで続くのかしら?

私は意地悪くそんな事を考えていた。

でも彼はどこまでもどこまでも優しかった。

私のために色んなデートプランを企画して実行した。

後から知った事だが彼は難病だった。つまり余命が人より短いのだった。

だから好きになった人にはとことん尽くしたかったようである。悔いの無いように生きたいというのが彼の根っこにあるようだった。

先に死ぬことになるから結婚はしないというのも後から知った。

彼には言ってなかったがこれは私にも都合が良かったのだ。

それにしても結婚しないつもりなのにお見合いをした女に良くもあれだけアタック出来たもんだと感心してしまう。

神様は時に不思議な事をする。

別れの時

私達の幸せは長く続いた。
ざっと5年である。

当初冷たかった私も次第に彼を好きになり理想的な「結婚をしないロマンチックな恋愛」を謳歌した。

ケンカもしたけどよく笑い、慰め合い、ずっと続くと思っていた。

そんな時、彼に仕事を頼んできた人がいた。
彼の前職の上司で自分の下でまた働いて欲しいと言うのだった。

大企業の正社員である。
普通なら一も二もなく飛びつくのが普通だ。でも彼はそういった環境で難病に冒され、ストレスが半端ない事を承知していた。

しかし私としては若い男性がいつまでもパートでいることは良くないと思った。

難病といってもこれまで元気でやって来れた事を思うと大丈夫なんじゃないかと思ってしまうのだった。

そこで私はその話に賛成だと言い、彼もやってみることにしたのだった。

今までは職場で毎日会っていたのに、まったく会えなくなる事が如何に辛いか。

その時の私には想像もつかなかった。

どんなに忙しくてもメールをしてくれるように頼んだがそれだけでは寂しくて仕方なかった。

どれだけ彼の愛情に満たされていたか実感した。

しかし、恋愛経験の浅い私は、寂しい時どうすれば良いのか良く分かっていなかった。

転職してから月に一度しかデートに日を避けないのに、普段の寂しさからちょっとした事でケンカをしてしまう。

だんだん彼は私と別れたほうが私を辛くさせないと思い始めたようだった。

愚かな私はそれに気が付かなかったのである。

彼は数ヶ月をかけて私を説得した。

少しずつ、自分と別れたほうが良いと遠回しに言ってきた。

彼の決心は固かった。

何度もそんな話をして「今日が最後」という彼にうなずくしかなかった。

私は泣いた。
恋愛で初めて泣いた。

若い人たちへ贈る言葉

これから恋愛しようとする人へ言いたいのは、

恋愛には寂しさが付きものだという事。

私のように大切な彼を無くさないように「寂しさを相手にぶつけない事」を学んで欲しい。

スポンサーリンク
336 x280の広告
336 x280の広告

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
336 x280の広告