中学・高校入試に人物本位を持ち込むって、褒め称えるようなものなの?

大学入試センター試験

「人物本位」にしとけばいいと思ってるよね

最近の入試関連のの流行語が「人物本位」。

2020年の大学入試改革についてだけでなく、中学や高校の入試や教育方針でも言われてる。

正確に言えば、政府の公的な文書にはさすがに露骨に「人物本位」とは言っていないらしい。

ある教育ジャーナリストによると「能力・意欲・適性を多面的に総合的に評価・判定するもの」というのが正しい文言で、「人物本位」という分かりやすい4文字熟語マスコミが報道しやすいように名付けただけで「まるで人格を判定するような誤解を招く」って書いている。

だけどさ、似たようなものじゃん。何に能力があって、意欲があって、適性があるかってのが人格の大部分なんだからさ(全てじゃないにしても)。で、マスコミとかが「入試が人物本位へ」と言うと、もう当然に「良いニュース」扱いなんだよね。

で、「人物本位」入試を行っている大学関係者とか、「人物本位」入試を見据えた教育方針をとっている中高の教育関係者が得意げにインタビューに応じているでも、「人物本位」で選抜するって、言うほど素晴らしいことなの?

昔から言われてることの焼き直しじゃん

昔から「数字で判定できるような教科学習の能力」を否定して、「それ以外」を称えるような物言いってあったよね。

40歳代の私が子供の頃は「偏差値による輪切り教育を止めよう」って盛んに言われてた。その後、「ゆとり教育」があって「総合的な学習時間」っていうのが取り入れられて。

教科の偏差値以外を評価するAO入試がもてはやされたのもこの頃かな。

そして、今度はアクティブラーニングとか何だかと一緒に「入試を人物本位で」っていうのが流行ってるんだよね。

ついでに言うと、そこで持ち出されるのは「欧米ではそうじゃない」「日本は特殊だ」。この最新バージョンが「グローバル化に対応する人材の育成を」だ。

じゃあ、ペーパーテスト偏差値以外でどんな選抜試験をするかっていうと「小論文」とか「面接」とか。

もちろん決め台詞は「欧米の入試はそうなっている」。

昔から言われている反論

昔からこんなこと言われていて、そして昔から反論があるんだけどね。

しかも、まずはその「欧米様」で。ちょっとでも社会科学系の知識があれば、ピエール・ブルデューの「文化資本」てキーワードだけで分かる人も多いと思う。

このブルデューさんはフランスの人で、フランスの入試が論文と面接なのが問題だって言ってた。

フランスと言えば、フランス革命で平等をうたい上げた国なわけで、貴族とかの生まれでなくて、その人が生まれてから受けた教育で培われた能力による選抜が平等ってことになっている。

でも、面接とか小論文とかだと、態度や仕草、使う語彙、話題の内容に、その人の家庭の階層がかなり反映されてしまう

そりゃそうだよね。

親が読書しなくて、家にある新聞は競馬新聞で、子供も漫画ばっかり読むのが当然の家庭と、家に文学全集がそろっている家庭と、どっちの家に生まれた方が有利かなんてはっきりしているもの。

結局エリート家庭の子がエリートになるんだよね。「平等に選抜されました」っていう大義名分とともに。

宮島喬さんていう教育社会学者の人がいて「だから日本の共通一次試験は公平と言う点では優れているのだ」っておっしゃってたのを放送大学かなんかで見たことある。

そう、共通一次の時代からこういう反論はあったんだよね。

今もある反論

今だって、東京大学教育学部教育社会学の先生方に、この種の反論は引き継がれている。

苅谷剛彦っていう学者さんに「学力と階層」って言う本があって、ここに対談が収録されている。

相手はなんだかよく知らない教育評論家か何かで(よくいるよね)「今の入試は教科教育だけで良くない。人間性全体を見るために美術や体育なども入試で評価するべきだ」なんて言っているのね(ありがちだ)。

それに対して苅谷さんが「ウチの研究室の院生が『公立の高校入試では内申制度で副教科まで評価される。評価されるのが少なくて済むから中学受験をする』という動向を研究テーマにしている」という返事をされてた。

ウチもそうだけど、多いよ、そういう「内申回避の中学入試」。

それから本田由紀さんって学者さんも、企業から学校から「コミュニケーション能力」だとか「リーダーシップ」だとか「創造性」だとかを「能力」として、選抜しようとする現状について「多元化する『能力』と日本社会」って本を書いてるけど。

こういう人間性に関する能力を選抜するって流れに2つ問題があるって書いている。

一つはやはり「個性などの人格の中枢にあたるものに優劣をつけるのは人権上問題ではないか」というもの。

もう一つは「家庭の階層を再生産するし、なかんずく母親=女性の負担が大きいのではないか」というもの。本当にそうだと私も思う。

大衆レベルの反論「先生の主観じゃん」

こういった学者さんだけでなく、大衆レベルで反論はいっぱいある。

代表的なのが「2ちゃんねる」とか「インターエデュ」とかの掲示板。

(インターエデュは受験生の親でないとご存じないかも。受験情報専門掲示板。親の書き込む噂や、妬みや非難はある意味「2ちゃんねる」以上のえげつないかも)。

もちろん、灘中とかそのレベルを目指す中学受験もあるんだけど、それとは別に「とにかく理不尽な内申制度から逃げないと」っていう理由で中堅校を目指すご家庭もたくさんある。

ウチもそう。

ウチの子供が小学生の頃、お母さん同士の飲み会で、上のお子さんを公立の中学に通わせているお母さん同士の話を聞いて「ああ、内申制度から逃げなきゃ」って思った。

なんでも、その中学の国語の先生がかなり偏屈で、発表の仕方とか作文の内容とか、普通の親ではよく分からない評価基準で採点するんだって。教科学習でも国語はわりと主観的にしようと思えば主観的になるよね。

さらに、ウチの学区では、より評価が主観的になりがちな副教科(美術とか音楽とか)を内申点の算出では2倍にするんだって。もう、先生に悪感情持たれたらどうしようもない評価システムだよ。

誰だって、今まで学校で付き合わざるを得なかった先生の中には一人や二人相性の悪かった相手っていたでしょう? 昔はその年齢だけ我慢すればよかったけど、今はその先生に将来を左右される。怖いよ。

大衆レベルの反論「時代の制約があるじゃん」

2ちゃんねる」とか見ていると、過去の先生への恨み節がたくさんあって。その中に「日教組の左翼的」な教育がやり玉にあがることが多い。

まあ、私が子供の頃って70年代でまだまだ第二次大戦の経験者も多くて、反軍国主義だったのは分かる。今だって平和主義は大事だと思う。

けれど、教師が自衛隊警察官の子どもを親の職業を理由に他の生徒の前で非難していたって聞くと、ちょっとね…。八つ当たりっていうか。でも、その時代の空気じゃ許されていたんだよね。

それと公立至高主義。夫によると、私立の学校に進学したいっていう子供を、学級会とかでつるし上げにしてたらしい。

〇君は地域の学校を捨てて、自分だけ学歴主義の学校に進学しようとしています。皆さんはどう思いますか」って。夫曰く「それが怖くて私学に進学しなくて人生棒に振ったやつもたくさんいる」。

それから、次は私自身の体験談。

公立中学校で、女子は男子トイレの掃除をしなくちゃいけなくて、男子はトイレ掃除がなかった。

私の進学した高校(県で一番の進学校)の女性の担任の先生にそれを話したら、しばらく絶句して「……それは、随分屈辱的なことをさせられたのね」と。

そう言われるまで自分が屈辱的な目に遭っているってことも分からなかった。でも、その時代の公立中学の先生にとっては「女子が男子トイレの掃除」の何がおかしいか分からなかったんだよね。

今正しいつもりでも、時代が変われば正しくないことってたくさんあるよね。

大衆レベルの反論「受け入れ先と選ぶ人が違うじゃん」

これは、あまりよそでは見なくて、私が思うことなんだけど。

企業とかが「コミュニケーション力」がどうとか、「社風に合う」を選抜基準にするのは別に構わないと思うよ。

大学なり高校なりが自分のところの教育方針で選抜するのもアリかもしれない。理系なら孤高の(アスペ系の)天才の居場所があると思ってたけど、最近は理系でもチームを組んで研究するそうなので、それなら選抜基準に「協調性」を入れるのも仕方ないかとは思う。

でも、入試で選抜するのって、その下の学校なんだよね。大学入試では高校の先生たちが評定するし、高校入試では中学校の内申書だし、中学入試でも小学校の作成する活動報告書を出させる学校も中堅以下の学校で出てきてる。

(難関進学校ではあまりないけど。中堅以下が「ウチは個性を重視しますよ」をウリにして自己推薦入試で生徒を集めようとしている)。

上の学校が必要にしている能力をピンポイントでは把握できないよ、そりゃ。あいまいでズレた評価基準で測ることになる。

中学校から高校への内申制度でいうと、音楽や美術とかの副教科の配点が高かったり、提出物に忘れ物がないかを評価するけど、忘れ物については、内申点対策のために母親が荷物をチェックしたりしてるんだよ(身近で複数聞いた)

高校はそんな生徒が欲しいの?

美術系や音楽系の専門高校なら分かるけど普通高校が音楽・美術を重視するの?

母親に荷物揃えて貰う親子に来てほしいの?

企業が自分で採用面接するみたいに、自分で選抜する方が合理的だと私は思う。

大衆レベルの反論「でも、やっぱりエリートがエリートを選ぶんだよね」

それでも、大学入試で大学が学生を選ぶのにも問題があると思う。

最初に挙げたブルデューの提起した問題が残ってる。

結局、自分たちみたいな知的に洗練された家庭の子弟を選ぶでしょうよ、そりゃ。まだ高等教育を受けていない海のものとも山のものとも分からない受験生が来たら、出来るだけ自分に近い人間を採るよね。ブルデューの以降の教育社会学者がずっと言ってきたように、子供が生まれた家庭の雰囲気で左右される訳でさ。

不公平だよ。

高校時代の、勉強以外の取り組みを見ようって、ボランティア経験とか、スポーツや芸術での受賞歴を見るっていっても、そんな生活に直結しない活動に金と時間を投じることが出来る家庭って裕福なわけじゃん

欧米が素晴らしいって、アメリカがああだよ?

裕福な生まれの子どもが優雅にボランティアだなんだとやってエリートになって、大衆からの支持を失ってる。ポピュリズムをあおって大統領になったトランプ大統領だって大卒エリートだし。

欧米、特にアメリカってなんか歪んでないか? あれを手本にするの? ああならないようにしないといけないんじゃないの?

それと、大学が受験性を選ぶにあたって、「新しい」「独創性」のある学生を選べるの?っていう現代的な問題もある。

スティーブ・ジョブズとか、あんなトンがった人間は弾かれるんじゃないの?

生意気だったり風変りだったりするとそれだけで高等教育の入り口にも立てないじゃん。

まだ大学院入試なら、高等教育の成果(卒論・卒業研究)と抱き合わせで評価できるけど。18歳とかそこらで、高校レベルの知識しかない相手を選ぶのに、大学の先生が小論文面接で何を評価できるの? 何となく自分に近くて無難な学生しか採りそうにないよ。

東大や京大以外の研究者養成機関でない大学って、正直、大卒の「免許状」を発行するだけの機関になちゃってるのが現状でしょ。

学生も、大学で何かを学びたいというより「大卒」になりたいだけだし、教員だって自分の研究はしたいけど、学生を研究者にするつもりはないよね。

お互い、無難に4年間過ごして卒業することが目的なんだよね。面倒くさそうな学生は要らないんだよ。自分のところで弾いて、より下位の大学にたらいまわし出来ればそれでいい……ここまで書くと極論かな。

逃亡資金が欲しい

それでもカネがあれば、進学は出来るんだ。一つは私立大学なら逃亡先があるということ。

もう一つは距離の問題

首都圏ならいろんな思惑の大学を選べるかもしれないけれど、地方なら自分にあった進学先を選ぶにも下宿生活しなくちゃいけなくなるから。

高校入試理不尽な内申制度から逃げるには、私立中学なんだけど、もちろんカネがかかる。私立中学自体だけでなく、入試に臨むための学習塾代だってバカにならない。

もう一つ。

人物本位」の選抜に耐えうる「ひとかどの人物」にするためのカネも必要。

意欲とか関心とか主体性とか、そりゃ大事だよ。学校教育を終えたら、こういったことで人生を切り開かなきゃいけないのも真実だよ。

でも、大人になって職業選択の段階で、それらが芽生える前に、子供のうちからそれを揃えないといけないんだよね。

関心を高めて意欲を引き出すのは、公立の学校の先生が誰でもできることじゃない

家庭が、例えば博物館とか史跡巡りに連れまわすとか。芸術・スポーツ関係の習い事させるとか実際、東大とかに子供が入学するご家庭ってこういうことを自然に取り組んでいる家庭が多いよ(受験勉強だけの方がマイノリティだと思う)。

でも、これって母親が専業主婦でないと自前でするのが難しいよ。それか、母親が仕事をしながらでも、相当上手いこと学習塾習い事を活用するか(このマネージメントに母親がかなり労力割かれるけど)。どちらも家庭に金銭的な負担が大きいよね(母親が働かなくて済むカネ。カネに糸目をつけずに塾と習い事を選ぶためのカネ)。

本田由紀さんは、コミュニケーション力だのそういうあやふやな「能力」を育む専門的な社会政策が必要って言ってた。もちろん、国が用意してくれるなら有難い。

でも、もう信用できないんだよ。

国の教育制作の迷走ぶり見ていると。

だから、個々の家庭が国の政策に振り回されずに済む逃亡資金が欲しい。単に家庭にカネをばらまいても、それが教育に使われるとは限らないってのは分かる。

だから、クーポンとかそういうのにしてくれないかな。領収書出したら経費として認めてくれるとか。

政策に振り回されずに何十年後にも残る実力としての基礎学力を担保する「教育費用」と、学校教育後に確かに必要になる「人物」になるための「教養費用」。こういったものをきちんと家庭によこして欲しい。

それが、国や教育関係者が漠然と「人物本位」で夢見ている次世代の人材養成を現実にするのに必要と、私は思う。

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