1.今の日本の社会保障のあり方
私は30代の会社員の男です。リハビリの医療関係の専門職を10年勤めております。
今回は日本の社会保障のあり方を考えてみました。
この問題に取り組むきっかけになった出来事は、貧困で3食のご飯を満足に食べられない子ども達がいると知ったことです。
そして、高齢化社会の進んだ日本では高齢者の方を支援する制度は整いつつあります。
年金、医療制度、介護支援制度とひと通りの支援の仕組みが整っているように見えますね。一方、子ども達や若い世代への支援はどうでしょうか?
子どもが貧困で困るのは、「親の稼ぎが悪いから」仕方のないことなのでしょうか?働きたくても働けない親は、「怠けてないで子どものために働け」で済まされるのでしょうか?
私はそうは思いません。
支援の必要な方には公共の支援を受けられる仕組みを作るべきだと思います。
今回は日本の社会保障制度が高齢化社会を意識するあまり、高齢化社会対策にのみ偏ってしまった現状と今後のあり方を細かく考えてみます。
2.医療や介護、高齢者支援の予算と子どもや子育て支援の予算の差
2016年度の政府の発表から医療や介護関連の費用と子育て支援の費用の差を調べてみました。
【2016年度の社会保障費】
年金 | 56.7兆円 |
医療費 | 37.9兆円 |
介護関連 | 18.0兆円 |
子育て支援 | 5.7兆円 |
桁が1つ違います、すごい差ですね。
次は医療費をどれだけ1人で使っているかになります。
こちらも子ども世代の0〜14歳と高齢者世代の75歳以上で比べてみましょう。
【一人当たりの年間の医療費】
0〜14歳 | 8.8〜22.2万円 |
75歳以上 | 77.7万円〜117.8万円 |
こちらも桁が1つ違いますね。
子どもと高齢者では必要な医療の内容も異なるため、単純な比較はできません。
しかし、子どもや子育てへの費用に比べて高齢者世代への費用が偏っていることは数字で現れていますね。
3.不必要ではないが本当に必要なのか疑問な費用
先ほどの医療費の偏りで比べてみますと、確かに乳幼児期の出産や健康診断、予防接種以外は医療を必要としない子どもに比べて高齢者世代では様々な病気にかかり医療の支援を必要としています。
ですが、本当に必要としている医療費なのでしょうか?
中にはお酒や好きな食べ物の偏食など、生活習慣を全く改める気のない生活習慣病の方が糖尿病や通風、コレステロールの治療薬をもらうために通院する方もいます。
子どもの怪我は水洗いと絆創膏ですが、腰痛や膝の痛みがあってもウォーキングのできる方が鎮痛剤や湿布をもらうために月に何回も通院する方もいます。
生活習慣を全く改める気がないなら、同じ内科でも通風の薬ではなくアルコールの治療薬をもらうべきですし、運動ができるくらい元気な方は湿布や治療薬は薬局で自費で購入すべきです。
医療費は本当に治療しなければ生活や生命に関わる場合に使うべきです。
4.現代の雇用の状況
ここで若い世代、特に結婚や子育て世代でもある20〜30代の雇用の状況を確認してみましょう。データは2016年度の雇用統計を参考にしました。
非正社員の割合 | 男性 | 女性 |
2016年 | 約16% | 約40% |
1991年 | 約5% | 約25% |
2016年の男性非正社員の割合は約16%、女性は約40%です。
親世代が同じ年代であった25年前、1991年と比べてみましょう。
1991年の男性非正社員の割合は約5%以下です、女性は約25%でした。
景気回復や女性の社会進出と言われる現代ですが、男女共に雇用の安定とは遠くなってきている現実があります。
5.若い人はお金が無い事実
さらに、団塊の世代、バブル世代が日本の社会を引っ張り頑張っていた時代からは大きく変わっていることを自覚しなければなりませんよね。
家庭生活に限るだけで、これだけの違いがあります。
- 大黒柱の収入だけでは十分に暮らせない
- 核家族化が進んだこと
- 晩婚化が進んでいること
- 子どもの出生率と一家の子ども人数が減っていること
まずは大黒柱のお父さんの収入だけでは十分に生活が送れない事実があります。
理由は不景気のみでは無いことは皆さんもご存知の通りです。
出費そのものが増えたことと子育てにお金がかかり過ぎるようになったことがあげられます。
おおよそ30年前に比べて、パソコンかスマホがなければ仕事も生活にも周囲に比べて遅れてしまいます。
車の値段も上がり安さが売りのの軽自動車でさえも100万円を超えてしまいます。
子育てにもお金がかかり過ぎます。
保育園は不足し幼稚園は教育内容が充実した代わりに利用料金も充実してしまいました。
さらに義務教育を終えても、高校を卒業したてでは安定した職業に就くことが難しい時代です。
そのため資格を取得して就職を目指す専門学校や、より学業を深め業績の良い企業に務めるために大学へ進学します。
多くの子どもさんは私立の専門学校や大学に進学されますが、学費だけでも1年間で100万円かかります。
そんなお金を稼がなければならない大黒柱のお父さんの収入は、2016年の発表で442万円の結果が出ています。
この結果はあくまで平均値ですので、高収入の方も含まれています。そこで中央値と言う、その付近の平均年収が最も多い値で修正してみましょう。
中央値は過去20年のデータいずれも平均年収−100万円程度になっています。
すると442万円−100万円で342万円、税金や社会保険料を引いた手取りで280万円といったところでしょうか。
生活地域によって差はありますが、「贅沢をしないで何とか食べていける」程度ではないでしょうか。
とてもワークライフバランスや子どもにより良い教育をなどと考える余裕はありませんよね。
6.貧困な子どもが増えている事実
今の子どもの親世代、私たち30代の雇用が不安定で収入も少なく、出費ばかり増えています。そのしわ寄せは子ども達にいってしまいます。
『子ども食堂』と言われる場所をご存知でしょうか?
親の収入では満足に3食食べられない子ども達が実際にいて、無料や格安で夕食を提供する民間の取り組みです。
地域の集まりやお寺や教会など、また個人の飲食店が3食のご飯を満足に食べられない子ども達のために行っている取り組みです。
問題は国の取り組みではないことです。民間の方々の善意に頼って行われていることです。
「困っている人を助けよう」、確かに素晴らしい考えと行動で見習わなければなりません。不安定な親の雇用と収入のしわ寄せを受けている子ども達。必要性の少ない医療費を公共のお金で使う人達、不平等と思いませんか?
7.なぜここまで偏ってしまったか?
若い世代の生活が不安定で、高齢者の方の社会保障が充実している。
なぜ、このように偏ってしまったのでしょうか?
1つに高齢化社会が訪れたということが挙げられますが、それは十分に予想できたことですね。
問題は2つあると思います。
1つは選挙の問題です。
日本の選挙制度では以前は20歳以上で選挙権が得られ、一生選挙に行くことができます。
高齢化社会ということは高齢者や高齢者を介護する世代に選挙権がある方が多くいることになります。
選挙に立候補する政治家は、当選することが目的ですので、選挙権がある方が多い世代の関心を集めます。
つまり、その世代の利益になる政策を打ち出して票を得て当選します。
その政治家が集まった政党も選挙権がある方が多い世代に向けた政策に偏ることになります。
もう1つは、社会保障制度が古いことがあります。
正社員のお父さん夫婦と長男夫婦と孫が同居して生活する世帯に合わせた制度を取り続けているため、現代の核家族で若い方の親世代は遠い地元で暮らしている現状に合っていないことも原因の1つでしょう。
その結果、医療や介護支援の制度は充実しましたが、子育てや就労に関する制度の見直しが遅れており、社会保障の偏りにつながったのではないでしょうか。
8.そして、今必要な対策
今までの問題から、今後、必要な社会保障制度について考えてみました。
問題となっていることは社会保障の制度が偏っていることで、次のような悪循環に陥っていることですね。
- 子育てにお金がかかる時代であること
- 今の親世代の雇用と収入が不安定なこと
- 貧困が理由で高校や大学に進学できない子どもがいること
そして、今の子ども達が高校や大学への就学を諦めた結果、安定した収入が得られないことが次の世代への悪循環に陥ってしまうでしょう。
そこで、マニュフェストではありませんが、3本立ての社会保障を考えてみました。
- 子育て支援
- 働き方の改革
- 就学支援
子育て支援では、保育園、義務教育、高等教育、専門学校や大学は親の収入に一定の基準を設けた上で無償化しても良いと思います。
さらに、子育てにかかる医療費や文房具や衣服などで使えるプリペイドカードのようなものを支給して子育てのお金の負担を可能な限り0になるまで減らしてしまうくらいの仕組みが必要でしょう。
さらに子育て世代の雇用です。
子どもの生活に合わせて働くには、今の日本の正社員としての働き方は不具合が多い現実があります。
給料の同じ子育て世代と独身の方が同じ職場で同じ仕事に取り組んでいても、有給休暇や早退が必要な時があること、残業ができないことは独身の方からは不平等にも思われます。
そこで、単純な正社員、パート、アルバイトのみではない採用枠を設け、基本給も異なる仕組みを作る必要があります。
正社員としての働き方ができない場合には退職して別の職場でパート、アルバイトで働くしかない働き方では選択肢が狭いと言えます。
例えば次のように
・独身社員や子育てが終わった世代
・これからの子育て世代
・今の子育て世代
の3つ程度の採用枠を設け、それぞれで基本給を変える代わりに時間の裁量も選べる。
具体的には基本給が高いほど拘束時間が長く、低いほど時間の裁量を自身で選べる方法です。
その前に長時間労働を是正する必要もありますが、今回とは話題が異なりますので別の機会としましょう。
そして、子どもの就学支援です。
例えば大学に進学する場合、学費の安い国公立大学は2〜3割、高額な私立の大学は7割になります。
もちろん国公立大学が人気のため、学力のある方しか入学できないでしょう。
他にも資格を取るための専門学校の選択肢もありますが、専門学校も私立の学校になります。
以前は親世代が学費を準備していましたが、今の多くの学生は奨学金を利用しています。
年間で平均100万円、卒業する頃には400万円の借金を背負って社会に出ることになります。
まだ働いたこともなく、お金の感覚も身についていない進学前の方に400万円の借金を負う感覚は進学をためらう十分な理由にもなります。
返済不要の奨学金制度が取り上げられており、親の収入や本人の学力の基準ができ、平等に運用されることが理想ですね。
もう1つの方法は、学費そのものを公共のお金で建て替え学生が社会に出てから、その方の納める税金や社会保障費の中から徴収する仕組みも1つの案ではないかと思います。
このような政策を掲げて選挙に出る政治家がいれば、若い子育て世代の票を集めることもできるのでは?と思います。
9.若者と子どもが頑張りを実感できる社会に
社会保障が必要なのは高齢者だけではありません。
必要な人に平等に社会保障が分配されることが、暮らしやすい社会ではないでしょうか?
そして、子ども達にしわ寄せがいかないように、若い子育て世代の生活を安定させてあげることで、貧困が貧困を生む悪循環を断ち切ることができるのではないでしょうか?
私は片親で育ち、親の病気も経験しましたが、幸い祖父母が近くに住んでいたため、3食は満足に食べることも必要な服を買ってもらうこともできました。
もし祖父母がいなかったとなると、極端ではありますがおそらく生きていたかもわからないでしょう。
若い子育て世代の方が安定して働くことができ、生活に必要な収入と子育てに必要な社会保障を受けられることで、子ども達が安心して暮らしていける社会したいものです。
子ども達が勉強やスポーツや学校の活動など努力した分だけ、明るい将来が待っている社会になってほしいものですね。